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研究内容 (Research summary)

 動物の初期発生では、一個の受精卵が細胞分裂を繰り返し、それぞれの細胞が分化しながら体軸(頭尾、背腹、左右)に基づいて所定の位置に配置されていきます。最近になって、これらの細胞の分裂、分化、移動に細胞増殖因子が重要な役割を担っていることが明らかにされました。とりわけ、TGF-βスーパーファミリーに属する細胞増殖因子は初期発生および器官形成過程で、幅広い生命現象に関わっています。私達は初期胚での胚操作がしやすく歴史的に実験発生学の知見が豊富な両生類(アフリカツメガエル・ネッタイツメガエル)を用いて、TGF-βファミリーの初期発生過程における機能を解析し、動物の形態形成の分子機構の解明を試みています。まず最初に、TGF-βファミリーに属する骨形成タンパク質(BMP)が中胚葉の背腹軸に沿ったパターニング、および外胚葉における神経と表皮の分化において重要な役割を果たしていることを明らかにしました。また、共同研究を通じて、マウスの原腸陥入期やニワトリの肢芽形成期においてBMPが必要であることを示しました。BMPのシグナル伝達についてはBMP受容体遺伝子を初めて単離し(Suzuki, A. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 10255-10259 (1994))、細胞内シグナルによって直接発現が誘導される転写因子としてホメオボックス遺伝子Xmsx1を同定・機能解析をおこないました(Suzuki, A. et al. Development 124, 3037-3044 (1997)) 。

 その後、WntファミリーやTGF-βファミリーのシグナル伝達系の重要性とその伝達経路の概要が明らかになり、ゲノム解析が本格化するにつれて、新奇遺伝子の機能と既知の遺伝子の多様な生理機能の解明が重要な課題となってきています。このような状況から、海外留学中に発現クローニング法を用いた胚発生の制御因子の機能スクリーニングを開始しました。発現クローニング法では、初期胚由来のcDNAを数百個単位で胚に導入・発現させて、その中からシグナル伝達系や胚発生に影響を与えるものを単離します。スクリーニングの結果、TGF-βシグナルと共に作用し、胚の後方と腹側領域の形成に働くxE2F転写因子を単離することに成功しました(Suzuki, A. and Hemmati-Brivanlou, A., Molecular Cell 5, 217-229 (2000))。広島大学で研究室を開設後も、発現クローニング法のアッセイ系に工夫を取り入れながら、TGF-βシグナル伝達やWntシグナル伝達を制御する遺伝子群の単離をおこなっています。そして、p53転写因子がTGF-βシグナルの細胞内シグナル伝達分子(Smad)と結合し、TGF-βシグナルと協調的に初期胚の中胚葉形成を促進していることを発見しました(Takebayashi-Suzuki, K. et al. Development, 130, 3929-3939 (2003))。E2F転写因子とp53転写因子は、それぞれ細胞周期の調節因子および癌抑制因子として、これまで研究されていましたが、発現クローニング法を利用したスクリーニングによって、胚発生過程におけるこれらの遺伝子の新しい機能が明らかになりました。

 2003年以降、発現クローニングに加えて、マイクロアレイ解析・ゲノム編集等の技術を取り入れ、胚発生の制御機構や幹細胞の分化・維持機構の解明を目指して、様々な遺伝子の解析を精力的におこなっています(Takebayashi-Suzuki, K. et al. Mech. Dev. 2007Takebayashi-Suzuki, K. et al. Dev. Biol. 2011Yoshida et al. Zool. Sci. 2016;Takebayashi-Suzuki, K. et al., Dev. Growth Differ., 2018; Virgirinia, R.P. et al., Dev. Growth Differ., 2019; Virgirinia, R.P. et al., Biochem. Biophysi. Res. Commun., 2021)。 また、最近では、組織・器官の再生機構の解明を目指した研究をおこなっています(Nakamura et al.,  Biochem. Biophysi. Res. Commun., 2020 & 2021)。

 この他、国内外の大勢の研究者と協力して、アフリカツメガエルのゲノム解析を完成させました。本研究は、Nature誌とDevelopmental Biology誌に発表されています(Session, A.M. et al. Nature 2016Suzuki, A. et al. Dev. Biol. 2017aSuzuki, A et al. Dev. Biol. 2017b)。

研究内容トップ

研究テーマ(現在の研究テーマの一部を記載)

  • 誘導因子に対する細胞の応答能(コンピテンス)の重要性

  • 骨形成タンパク質の細胞内シグナルを抑制する遺伝子の単離と機能解析

  • BMPシグナルとWntシグナルの協調による神経パターン形成機構

  • 組織・器官の再生機構

  • 神経や中胚葉の誘導とパターニングの機構

研究プロジェクト

Embryonic Stem Cells

(1)初期発生の分子機構

「私達の体の各部分は、どのようにして作られるのでしょうか?」 「動物は、どうやって多様な体の形を生み出しているのでしょうか?」 これらの疑問に答えることが、私のグループの研究目標です。実験材料には、カエル(両生類)を使っています。1つの細胞からなる受精卵が個体を形成するまでの過程を「発生」と呼びますが、カエルの卵は、ヒトやマウス(哺乳類)と比べると、とても大きく、動物の発生現象を容易に調べることが出来ます。初期の発生過程の進行も早く、遺伝子導入方法も確立されているので、体の形づくりを調節している遺伝子の機能も迅速に解析できます。最近では、ヒトの設計図ともいえるゲノム情報も利用可能なので、ヒトで見つかった遺伝子の機能をカエルの実験系で短期間に調べることが可能です。

Closeup of a Petri Dish

(2)遺伝子の迅速な単離方法(発現クローニング法)

発生過程を制御する遺伝子を単離する一つの方法として、私達は「発現クローニング法」を利用しています。この方法では、まず最初に遺伝子ライブラリーをそれぞれ100個の遺伝子を含むフラクション分割します。次に、各フラクションから合成したmRNAをカエル胚に導入して、遺伝子機能を評価します(遺伝子機能のスクリーニング)。重要な機能を持つ遺伝子を含むと考えられるフラクションは、さらに分割して単一な遺伝子が得られるまで、遺伝子機能の評価を繰り返します。私達は、この方法を利用して、これまでに新しい遺伝子を幾つも同定しています。

Molecule

( 3 ) 組織再生の分子機構

Coming soon

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